「ウーマン・トーキング 私たちの選択」  ~女性たちの民主主義に寄り添う美青年~

よみもの
引用元:「ウーマン・トーキング」公式サイト

 

 1980年代半ばから1990年代前半にかけてはミニシアターの全盛期でした。今で言うBL要素の強いイギリス映画が数多く公開され、イギリス人イケメン俳優が人気を集めました。ルパート・エヴェレット、ヒュー・グラント、コリン・ファースなど、カラっと明るいアメリカの若手俳優にはない憂いを帯びたイケメンたち。その流れをくむ俳優と私が勝手に思っているのがベン・ウィショーです。彼は、今回ご紹介する「ウーマン・トーキング」にも重要な役で出演しています。

実話を基にした衝撃のストーリー

 物語は2010年。伝統的で閉鎖的な自給自足の生活を送るキリスト教一派のコミュニティでは女性たちが、睡眠薬で眠らされた上に性被害を受けていました。敬虔深い彼女たちは「悪魔の仕業」という教えを信じて沈黙を続けていましたが、コミュニティに所属する聡明な少女2人が現場を目撃したことから物語が進展。犯行を知りつつ黙認してきた村の男たちは、犯人の保釈金を払うために村を留守にします。その間に、女性たちがこの問題にどう向き合うか議論を重ねるという実話を基にした作品です。

 家父長的価値観の中で生きてきた彼女たちにとって初めての民主的な話し合い。各人の宗教観の違いも浮き彫りになり議論は白熱してゆきます。そこに書記として参加を許された唯一の男性がベン・ウィショー演じるオーガストです。彼は現代的な価値観を持つ親とともにコミュニティから追放されたものの、大学卒業後に教師として戻ってきた青年。周囲に“男らしくない”と見なされている彼は、女性たちの議論を尊重し、意見を求められた時以外は書記に徹します。

引用元:「ウーマン・トーキング」公式Instagram

引用元:「ウーマン・トーキング」公式Instagram

 この難役を演じるベン・ウィショーが素晴らしいのです! オーガストは犯人の子を身ごもった1人の女性を愛しているのですが、それを口に出せず苦悩する姿は観ていて胸をかきむしられるほどです。のちに、彼は女性たちから重要な仕事を託されます。その仕事とは何か・・・ ぜひとも本編で確かめてください。

 映画中盤で、国勢調査の車がモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」を流しながら村に来るシーンがあるのですが、“Cheer up, sleepy Jean (寝坊助ジーン シャキッとしろよ)” この陽気でメルヘンチックな歌詞がベン・ウィショーの演技と相まって抜群の効果を上げています。

 なんだかオーガストが主人公のような書き方になってしまいましたが、作品のメインはあくまでもコミュニティの女性たち。世代を越えて自らの言葉で議論し結論を出していく様は民主主義のお手本のようです。また教育の重要性もこの作品の大きなテーマと言えます。

 ぜひ女性たちとオーガストが出す答えを見届けてください。

 

2022年製作/アメリカ
原題:Women Talking
配給:パルコ

小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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