「君と僕の5分」 ~globeの名曲にのせて~

よみもの
引用元:Pixabay

 

 去る5月20日の夕刻、日比谷で行われた映画「君と僕の5分」のトークショー付き試写会に行ってきました。いつの間にかベンチがフットライト付きのおしゃれなものに変わっていた緑豊かな日比谷公園を散策しつつ会場の日比谷図書文化館へ。館内に入るのはかなり久しぶりでした。翻訳学校に通っていたころは今ほどインターネットの情報が充実していなかったので、課題の調べ物をするためによく訪れたものです。当時の名称は「都立日比谷図書館」でした。歴史を感じさせる建物で、閉館間際に行くとちょっと怖いような雰囲気だったっけ・・・ 自分語りはこれぐらいにしてレビューを始めましょう。

J-POPがタブーだった時代

引用元:映画「君と僕の5分」公式Instagram

 この「君と僕の5分」は日本のエンターテインメントがタブー視されていた2001年の韓国を舞台に、保守的な都市である大邱(テグ)の高校に転向してきたオタク気質の少年ギョンファンと、成績優秀でスポーツ万能な人気者ジェミンの交差する想いを描いた作品です。

 結論から言ってしまいますが、めちゃくちゃよかったです。ポスターなどのイメージから いわゆる“BLもの”を連想していましたが、かなりシリアスで観ていてヒリヒリするような痛みさえ覚えました。家父長的な考え方が根強い社会の閉塞感や生きづらさ、セクシュアリティー、収入格差や教育格差の問題、さらには人間の本当の強さとは何か・・・ そんなことまで考えさせられる作品です。

 1998年に交わされた日韓共同宣言(21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ)を機に、韓国では日本大衆文化が開放され始めました。日本で「冬のソナタ」が大ヒットして韓流ブームが起きたのが2003年ですから、本作の設定である2001年はその中間地点ですね。当時はまだ韓国の若者が日本の音楽やアニメをおおっぴらに鑑賞することはなかったようで、そういった意味でもギョンファンはマイノリティーです。彼は一般家庭にも普及しはじめたインターネットで日本のコンテンツの海賊版を入手していました。でも制約があるほど熱量が高まるのは必然で、この“秘密の”趣味がギョンファンとジェミンの距離を近づけていきます。

 どういうわけか何かと世話を焼いてくるジェミンと それをとまどいつつも受け入れていくギョンファンの姿は恋の芽生えを予感させるのですが・・・ この先はあまり予備知識を持たず観るほうがいいかと思います。

 本作はglobeの楽曲「DEPARTURES」と「FACES PLACES」抜きには語れません。試写会後のトークショーでも話題になっていましたが、ここまで日本の楽曲がフィーチャーされた外国作品はかなり珍しいそうです。globeをはじめ小室ファミリーが一大旋風を巻き起こしたのは1990年代後半以降ですよね。小室哲哉さんが書く詞は1970~80年代の歌謡曲で育った私の耳にはなんだか異質で、正直なところ馴染めませんでした。また翻訳の勉強を始めた時期とも重なり、外国語をどう自然な日本語に置き換えるか四苦八苦していた身からすると、その歌詞に推敲途中の文章のような収まりの悪さを感じてしまったのも事実です。ところが本作品を観てその偏ったイメージが覆りました。繊細な少年たちの心情、そして韓国の街並みにこれほどマッチするとは! 試写会後「DEPARTURES」を口ずさみながら夜の日比谷公園を歩いている自分がいました。

 トークショーでは翻訳家/ライターである桑田優香さんが留学していた時期の韓国内の空気感など興味深い話も多く、来場者の方々も熱心に耳を傾けていました。桑田さんによると、ある登場人物にオム・ハヌル監督の高校時代が投影されているとか。すぐに誰だか分かりますよ(笑)

 「君と僕の5分」は6月5日より全国公開。ガラス細工のような少年たちの心にぜひ触れてみてください。

 

2025年製作/韓国
配給:SPOTTED PRODUCTIONS、ツイン

小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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